「歩くと足が痛い」 「足の指の傷が治らない」「足がいつも冷たい」 といった症状はありませんか?その症状は足の血管が悪いのかもしれません。
足の血管が動脈硬化などで徐々に血流が悪くなると、足が酸欠状態になり痛みが生じてきます。痛くならなくても足が冷たく、痺れが出るだけのこともあります。ひどい状態では足に傷ができて治らなくなったりします。「まだ我慢できるし、大したこともないよ」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この症状は あなたの体が出している警告なのかもしれません。

「健康は足から」とよく言われます。この言葉にはいろんな意味があるのですが、よく歩く人は概して健康であると言えます。逆に痛みが生じて歩くのが辛くなるのならば、何らかの健康を害する要素があると言えるでしょう。その一つが動脈硬化によって血流が悪くなっている場合です。これは足に症状が出ているわけですが、動脈硬化が起こるのは全身の動脈に及んでいます。例えば、心臓の動脈が悪くなって知らないうちに心筋梗塞の一歩手前かもしれないのです。あるいは首の血管(頸動脈)にも詰まりが起こっていて脳梗塞が起きる手前なのかもしれません。もしかしたら動脈瘤がお腹の血管に生じており、破裂寸前のこともあるでしょう。
足の痛みだけだと油断していると、命を縮める病気があるのかもしれません。

左の図は、悪性疾患と足の動脈硬化の病気(PADと呼んでいます)の5年間の死亡率を比べたものです。なんとびっくりですが、大腸がんよりも死亡率が高く、血液の癌である悪性リンパ腫とほとんど一緒の死亡率であるのがわかります。もちろん死亡の原因は、足だけではなく、心筋梗塞や脳梗塞、足の傷の感染などによるのですが、足だけといって放っておいていけないのはわかっていただけるのではないでしょうか。


お風呂から上がって、足を見るといろんなことがわかります。足はむくんではいませんか? 指と指の間に傷はできていませんか? 爪はどうでしょう? 当科では足の血管を主に調べますが、当院が総合病院である利点を生かして、皮膚科や整形外科などと連携をとった診療を提供できる利点があります。調べてみれば結果的には脊椎管狭窄症であったり、皮膚炎であったりすることもありますが、心臓や他の血管の病気が判明することもしばしばあります。足だけで大したことはないと放って置かずに是非とも相談に来ていただければと思います。

カテーテル治療について

足の血管の治療に対してカテーテルを使用した血管内治療が広く行われています。血管内からの病変部へのアプローチすることから、血管内という意味の Endovascularと治療というTreatment の頭文字をとってEVTと呼ばれています。この領域の進歩は著しく、また日本から世界へと研究成果を広めている分野でもあります。つい最近までは、欧米で使用できる医療器具や医療材料が日本では認可されずに、なかなか最先端の医療器具が使用できずにいました。この欧米と日本での使用できる医療器具の時間差(これをデバイスラグといいます)が長いことが問題となっていました。このデバイスラグも短くなってきており、このEVT分野での医療器具の進歩と相まって、様々な医療器具が使用できるようになっています。ここではそのいくつかを紹介したいと思います。

治療法としては、腕や脚の付け根などの血管から、先端にバルーン(風船)がついた細く柔らかいカテーテルを挿入して、血管の狭くなった部分をバルーンを膨らませることによって血管を押し拡げて血流を確保することが主流です。しかし血管を拡げても血管が再び狭くなってしまう(再狭窄といいます)ことが問題でした。これを予防するために、ステントと呼ばれる特殊な金属のチューブを挿入し血管の中で拡張させることで血管を内側から補強することがあります。さらにはステントに再狭窄を予防する薬剤をコーティングした、薬剤溶出性ステントを用いることもあります。またステントを用いずにバルーンの外側に再狭窄を予防する薬を準備しておき、血管の内側に直接薬を届けることができる薬剤コーティングバルーンを用いることもあります。

薬剤溶出性バルーンのイメージ  画像提供:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社

また狭くなった、あるいは閉塞した血管をバルーンカテーテルで拡張する場合は、しばしば血管内に亀裂が入ることで拡張に成功します。しかし血管のどこに亀裂が入るかは予想ができません。そのため血管が意図しないところで裂けることで血管が損傷することがあります。そのためにあらかじめブレード(刃)が仕込まれたバルーンを拡張することによって、わざと裂け目を作り(コントロールして裂け目を作るわけです)血管の損傷を最小限にとどめ、ステント治療につなげる、あるいはステントを使用しないで治療に成功することが期待できます。このような目的のカテーテルとしてカッティングバルーンカテーテルがあります。また同様の目的で拡張を行うスコアリングバルーンカテーテルというものもあります。

カッティングバルーンカテーテルのイメージ  画像提供:ボストンサイエンティフィックジャパン株式会社